2025年、暦の上では秋を迎えたものの、まだまだ猛暑が続いた日本列島。夏のイベントとして人気を集める、もてぎK-TAI決勝日を1週間後に控えた8月31日付で、大会事務局より1枚の公式通知が出され、こう記されていた。
「#59について、エンジンと電気モーター・バッテリーを搭載したハイブリッド仕様での参加の申請が出され参加を認めた」と。
これまで、本誌では水素を燃料とするカート、カーボンニュートラル燃料に対応したカート、バッテリーEV(BEV)カート、そして燃料電池カートと取材、レポートをしてきた。一般市販車の世界でも、二酸化酸素排出量を減らす目的もあり、様々な機構のパワートレインが開発、販売されてきたこともあり、その流れがカートにも来ていることを実感させるものだった。その中で、ひとつだけ実現されてこなかった機構、それがハイブリッドだ。
車では、BEVに先駆けて実用化され普及してきたハイブリッドが、カートのパワーユニットとしては存在して来なかったのだ。そのハイブリッドが、K-TAIでデビューするという。そこには、どんな開発ストーリーがあったのだろうか。
今回、このハイブリッドカートを作製したのは、栃木県宇都宮市郊外に本拠を置き、関東近郊で数年前から開催されている電動カートのシリーズ戦ERKや、K-TAIにも5年連続参戦しているZ-KARTというカートチームだ。ERKに参戦、数々の好成績を残してきたことからも分かる通り、電動ユニットを使用する電動カートを活動の中心に置いてきたチームとなる。
学生時代に学生フォーミュラに参加し、モノづくりに夢中になったメンバーを中心に、様々なメンバーが加わり構成されたチームとし活動。昨年から、本拠を宇都宮市に移転している。移転先は宇都宮の名産品とも言える大谷石造りの蔵で、内部をガレージ風に改装し、さらには2階に宿泊スペースも作ることで、週末の集中的な作業を可能な環境を構築し、モノづくりに励んでいる。
前述のように、BEVカートでK-TAI参戦を続けていたZ-KARTがハイブリッド方式での参戦に舵を切ったのは、昨年大会が終わってからのこと。ERK参戦のノウハウもあり電動部門では常にトップクラスの結果を残しているZ-KARTだが、同時にBEVではバッテリーの数が勝敗を決する重要なファクターになってしまうこと、それは資金力とイコールでつながることにジレンマを感じていたという。
バッテリーは走行時に放電したものをインターバルに充電することとなるが、現状では放電時間の方が遥かに短時間となるため、充電を追いつかせるには予備バッテリーが大量に必要となるというのだ。そこに行きついてしまったそのタイミングで、初めてのエンジン、KX21が入手できたことから、ハイブリッドへの構想が広がっていった。
昨年大会が終了後、間を置かずにハイブリッドへの移行を決意し、年明けからマシン製作、テスト走行などを実施。もちろん、テストではモーターマウントの強度不足やモーターの熱対策など、思わぬトラブルも数多く発生し、決して万全にテストを行えたわけではなかったというが、それでも本番前にハイブリッドシステムを稼働させての実走行も行い、本番へと臨んだ。
今回のカートに搭載されているハイブリッドシステムは、主動力源はエンジンが担当し、それを小型モーターが補助する方式だ。モーターの出力をコントロールすることで適切なアシスト量でサポートする。自動車でいうトヨタ方式のようにモーターのみでの走行というタイミングはなく、常にエンジン、モーターともに稼働し続けているとのこと。
初参戦となった25年大会では約7時間(大会は赤旗終了のため)で70周回と完走扱いでは最少周回数とはなったが、ラップタイムは参戦クラス(クラス2)トップの2分41秒174に対しても、大きく遅れることのない2分43秒917をマーク。出来立てほやほやのシステムであることを考えると、まずまずの結果を残したと言える。
もともとが学生フォーミュラをバックボーンとする集団ということもあってか、様々な自作パーツも作成。カートへの造詣は決して深くはないとのことだが、フレームの延長やバッテリー搭載用のサブフレームの作製などはお手の物。さらに、ドライカーボン、ウェットカーボンで外装パーツ類も作成する。ただ、カートに関しての知識が少ないため、いわゆるカートの整備、組み立て等に関しては初歩的な部分に疎いところもあり、今後はそういった知識も身につけていきたいという。今までの電動カート部門でのピットでは、物理的に離れていたがために、いわゆるカートチームとの交流はなかったというが、今回、初めてエンジン付きでの参戦となり、カートチームと同じエリアのピットスペースを使用することとなったことで、様々な交流があったとのこと。パーツやメンテナンスの情報、ノウハウなども知り得るようになったため、それを今後に活かしていくという。
さて、今までカートでは存在しなかったハイブリッド。それは、システム自体が複雑になるということもあっただろうが、ハイブリッド化によるメリットがどこにあるかも焦点の一つではあった。実際に参戦してみての成果を訊ねると、ガソリン、バッテリーともに純エンジン車、純電動車に対して燃費が良くなっているという。この先、システムの熟成を進めることで、ピット回数の減少に繋げられる可能性は高く、そうなるとピット回数の差を活かして上位進出を狙えるという。
すでに来年大会へ向けてはキックオフミーティングも実施。年間計画も立案し、より万全なテスト、トラブルシューティングを行って本番に臨む方針を固めている。マシンの軽量化や、空力などに関しても見直しを図り、ポテンシャルを向上させていく。モノづくりが好きなメンバーが集まったチームなので、構想を形にして走らせるということが大きなモチベーションとなり、毎週末のように数時間かけてガレージへと集まり、集中しての作業を行っていくようだ。
立ち上げ当初、ほぼ何でもありのレギュレーションでエンジン2基搭載や、大型ウィングなどの空力デバイスも工夫、走行スピードはもちろん、モノづくり、マシンづくりのオリジナリティ、楽しさも魅力だったK-TAI。過激化したことにより、安全のためにスポーツカート系へとレギュレーションが改訂され、それでもバイオ燃料の使用や電動部門など、マシンづくりを楽しめる要素を残してきた。そこに新たに加わってきたハイブリッド機構。K-TAIがモノづくりの祭典に戻ることも、そう遠くないことなのかもしれない。
チームでは、ハイブリッドカートの先に、オリジナルのフォーミュラマシンの作製さえも夢見ているという。
■2025年K-TAIエンジョイ7時間耐久 59号車(クラス2) Z-KART成績
決勝周回数:70周(規定周回数完走)
ベストラップ:2分43秒917(55/70)


