FIAがドライバー育成と、各国のドライバーへの国際レース参戦機会提供の場として始めたFIAアカデミートロフィー。
2014年の立ち上げ当初からジュニア部門のみが行われ、レースだけではなく座学などもあることで注目を集めてきた。発足から11シーズンが経過した今季からは、いよいよシニアクラスも追加され、各国から代表選手を募り初のシリーズ開催となった。
ここに日本代表として手を挙げ参戦、初年度のチャンピオンを獲得したのが佐藤佑月樹だ。ヨーロッパで行われる国際シリーズで、日本選手がチャンピオンを獲得したのは、22年の中村ベルタ起庵以来の快挙となる。歴史に名を刻んだ佐藤に、今季を振り返ってもらい、タイトル獲得までの道のりを聞いた。
■まずは今季、アカデミートロフィーに参戦しようと思った理由から聞かせてください。
佐藤:2022年にMAXのグランドファイナルに出たのですが、そこで予選落ちしてしまって、すごく不甲斐ないなとめちゃくちゃ後悔したんです。それで、こんな機会は今しかないなと思って、応募しました。グランドファイナルに行ったときにはコミュニケーション能力がなかったんです。今回アカデミーに出て、自分としてもコミュニケーション能力は高まっていたし、コンディションやチームメイトとも話ができて、そこは自分としても成長できた部分だと思います。
■アカデミーにシニアが新設されるというニュースが出て、すぐに出たいと思ったんですか。
佐藤:すぐに応募しました。そのまま推薦に通って出場することができることになって、すごく喜びました。グランドファイナルが、海外レースは最初で最後なのかなとずっと思っていて、自分への悔しさをずっと背負っていて……。それを晴らすために出たくて応募しました。
■アカデミートロフィーがどんなレースなのか日本ではあまり知られていないので、その部分を解説してほしいのですが、まずマシンはOKNですよね。
佐藤:はい、OKNです。キャブレターもフロート式で、セッティングも決められています。細かい調整はできなくなっています。
■マシンのパワー感としては、どのあたりのパフォーマンスと考えればいいですか。
佐藤:X30より速いくらいです。
■タイヤのグリップはどうでしたか。
佐藤:グリップします。路面もタイヤもいいので、ちょっと切っただけでインリフトしてスムーズに曲がっていきます。逆に、日本みたいにきゅっとブレーキをしてしまうと、すぐに乱れてしまうので、その違いは難しかったです。
■メカニックは日本の人がついていったのですか、それとも現地の方ですか。
佐藤:ウクライナの人でした。セットできる範囲でコミュニケーションをとりながらやっていました。英語が喋れない方で、イタリア語でしゃべっているですけど、僕の父がスペイン語が分かるので数字とかは分かっていて、それで伝えていました。あとは、松浦正紀(KMテック)さんが通訳してくれました。
■では、直接メカニックとやり取りする機会は…。
佐藤:最初はなかったんですけど、第2戦、第3戦は僕とメカさんだけで話す時間もありました。最初はイタリア語で話しかけられたので、何言ってるのかな?って感じでした。
■シリーズを振り返っていきましょう。第1戦、ポルトガルですね。台数も多い中、ドライバーのレベル、バトルの仕方はどう感じましたか。
佐藤:バトル脳というのか、それはは向こうの方が高くて、自分的にも苦労しました。日本の考えのままだといけないと思って、松浦さんにどうしたらいいのか聞きました。何とか予選とかも上位にいけたのですが…。でも雨でになってレインタイヤも初めてだったんですが、急に練習で3位とかになって、このタイヤ自分に合っているのかなと自信がついて、メカともタイヤの内圧とかの話もできました。
■決勝はポールでしたが、これは事前の想定に比べるといい方ですか。
佐藤:想定外でした。自分としてもポールがとれるとは思っていなかったし、奇跡、奇妙でした。3とか4番くらいだと思っていたので、ポールポジションは考えられなかったです。
■スタート前、緊張はしなかったですか。
佐藤:無茶苦茶しました。いつものレースより、緊張というかワクワクはしてました。緊張もしましたけど、メカニックからもリラックス、リラックスと言われて、ちょっとリラックスできました。あとは自分とメカニックを信じて走りました。最後は、自分でぶち壊したんですけど(笑)
■決勝は、バトルが激しかったですね。
佐藤:バトルというか、2番手の選手より全然速くて、1秒くらい速かったんですけど煽り運転してるみたいになって、凄く自分を恨むレースというか。最後はこれしかチャンスはないと思って、この大会しか勝てないと思ったんです。イタリアとかデンマークは厳しいかなって。ここしかチャンスはないいと思って、諦めずにやっていました。
■最終的にペナルティで3位になりましたけど、フィニッシュは1位。これは自信がついたのか、それとも後悔の方が多いレースでしたか。
佐藤:最終ラップ、ブロックしなければ……。向こうの友達とかそのお父さんにも、速いのになんでブロックするんだって言われて、みんなそう言うよなぁって。自信がついたとも言えますけど、一番は自分を悔いたというか……。
■第2戦はイタリア。
佐藤:TT9位でやばいなって思ったんです。TTは引っかかってミスして、メカニックには謝りました。予選ヒート、決勝へ向けてどうしようかってメカとも話しました。予選ヒートが1ヒート目全然だめで、16位くらいまで下がったんです。やばいって思って、ゴールでは8位まで巻き返しました。次のヒートは8位くらいでフィニッシュしたんですが失格になってしまいました。FIAが厳しくて、バトル中に少しラインを動かしただけで失格だってなって。でも、それはまた自分の学びになりました。
■決勝は9番グリッドからペナルティがありながら5位。ちゃんとポイントも獲得しました。
佐藤:そこで勝ってもないのにチャンピオンシップリーダーになったんです。3秒ペナルティがなければ4位、きつかったですね。スタート我慢できなかったんです。スタートの前に、(コリドーから)出てしまって、1周目から審議のフラッグが出ていたので、もうだめだなって。それで飛ばして飛ばして、最後までプッシュしていました。いろんな意味では良かったレースでしたが、やっぱりTTがダメだったなって。イタリアのコースはTTが重要で、沈むとクラッシュに巻き込まれる可能性が高いんです。僕的にはTTミスしなければもっといけたかなって思います。
■最終戦、デンマーク。リーダーとしてのレースでしたが、緊張感はありましたか。
佐藤:緊張感ありました。スタート前なんか緊張しすぎて、覚えてないです。チャンピオンシップリーダーとしても、追いかけてくるドライバーはいるので、緊張しました。
■TT、予選はいい感じで過ぎました。
佐藤:父と松浦さんにもノートラブルで無理するなよって言われていて、最後のヒートは雨でプッシュしたら1位になった感じです。決勝始まる前も、この感じだったら勝てるなとしか思っていなかったです。これで勝てなきゃやばいなって。で、決勝1~2周はちょっと離れていたんですが、絶対追いつくだろうなって。何とか7周目に抜かしましたが、そこから自分的には長かったです。後ろからもプレッシャー来るし、勝ってチャンピオンになりたかったので、余計に重圧がかかりました。ずっと自分のペースをキープすることに集中していたら、7秒も離して勝てました。
■コンマ2ずつくらい、コンスタントに離してましたが。
佐藤:最初はコンマ4くらい差があったんですけど、自分でミスもしたので。残り5周になったら急に離れました。やっと勝てた、チャンピオンだ、気持ちいいなって。
■あのコンディションには自信はありましたか。
佐藤:内圧も合っていたので、自信はありました。メカニックとも話して、決勝は新品タイヤも使えたところを、タイヤは全然持つし内圧も合わせたので、そのまま走って、プッシュできました。
■チャンピオンになってメカニックの人とかには何か言われましたか。
佐藤:車検場でもすごく喜んでくれていました。いろんな人が喜んでくれて、めちゃくちゃ嬉しいなって思いました。
■これまで日本でもいろいろなタイトルを獲ってきましたが、それと比べて今回のタイトルの価値や意味は違いますか。
佐藤:違ったんですけど、FS125JAFのタイトルを獲った時はチーム監督の金子雄一さんがチャンピオンにしてくれたところがあって、ジュニアの頃からドライビングも教えてもらってきましたし、金子さんのおかげでチャンピオンを獲れたところはあります。今回もその推薦がなければ行けなかったし、そのチャンスを逃さないように取り組んでいました。
■帰国してから学校にも報告しましたか。
佐藤:報告はしましたけど、先生はわかってないのかな(笑)レースが好きな友達は、『すげぇじゃん』って。分かってない人でも、日本人初のチャンピオンだって言うと『凄すぎる』って言ってくれたりしました。
■この経験は日本のレースにも活かせますか。
佐藤:走らせ方も、タイヤの潰し方とかが違いました。そこはタイヤ特性も違うので、その切り替えが難しいところはあります。
■この結果でヨーロッパのメーカーにも注目されて、来年の選択肢に国際カートレースは視野に入ってきますか。
佐藤:僕の予定では、今年TGR-DCに受かって、来年はFIA-F4に参戦して1年目でチャンピオンを獲ろうって思っています。その先FRチャンピオンシップとかに行きたい。でも時間があったらヨーロッパ選手権とかも出てみたいですね。
■グランドファイナルで感じた悔しさは、晴れましたか。
佐藤:だいぶ晴れました。あの時のメンバーが凄かったので、100%ではないですけど。あとは、9月の世界選手権で最低予選落ちはせず、決勝を走りたいと思っています。
■世界選手権では松井沙麗、遠藤新太も同じクラスになりますが意識しますか。
佐藤:気にはしていますけど……。急に速くなる可能性も高いし、僕が下位に沈む可能性もあるし。テストした時はちょっとショックを受けたので。
■最後に。最終戦で記念植樹していましたが、あれは何の木ですか。
佐藤:わかんないです(笑)何の木でしょうね。
■あれが大木に成長したころに、ヨーロッパで再会できると思いますが。
佐藤:楽しみにしています。
【佐藤佑月樹 Academy Trophy Senior全成績】
第1戦 Portimao/Poltugal
Q.P.(Drying) 3位:1:14.456
Q.H.
H1(Drying):1位
H2(Drying):4位
H3(Drying):1位
総合:1位
F.H.(Drying):3位(+5Sec.Penlty)
第2戦 Viterbo/Italy
Q.P.(Dry) 9位:54.407
Q.H.
H1(Dry):7位
H2(Dry):DSQ(危険行為)
H3(Dry):3位
総合:9位
F.H.(Dry):5位(+3Sec.コリドー違反)
第3戦 Rodby/Denmark
Q.P.(Dry) 5位:52.639
Q.H.
H1(Wet):5位
H2(Dry):7位
H3(Wet):1位
総合:3位
F.H.(Drying):1位
Series Points:169(1位)